「静かな未使用者」——AI時代でいちばん誤解されている人
導入会では頷いていたのに、自分の業務ではまだ開いていない。その人は怠けているわけでも、反対しているわけでもありません。そして、たいていの職場がとる対応が、かえって事態をこじらせがちです。

どの職場にも、完璧な頷き方をする人がいます。新しいツールの説明会で、担当者が「ここが自動化できます」と言った瞬間の、あの頷きです。温かくて、感じがよくて、そこに嘘はまったくありません。便利そうですね。本当にそう思っています。そして会議が終わるとタブを閉じ、そのツールを開かないまま、その週が終わり、その四半期が終わります。思い当たる顔がありませんか。
あなたの隣の席の人かもしれませんし、あなた自身かもしれません。どちらにしても、職場がその人について語る話は、だいたい決まっています。やる気がない、変化が苦手、内心ではAI推進に反対している。AI活用15タイプでは、この人を静かな未使用者と呼びます。そして、いま挙げた見立ては、ほとんど当たっていません。
反対でもなければ、賛成でもありません
まず、よく取り違えられる相手と切り分けておきます。批評家型とは違います。批評家型には立場があります。「AIって、まだ使えないでしょ」とはっきり言いますし、会議でもそれを主張します。しかも、その指摘が的を射ていることがあります。静かな未使用者には、主張そのものがありません。新しいツールをどう思うか尋ねれば、心からの同意が返ってきます。いいと思います、便利そうですね。そして、何も動きません。
これは反対ではなく、静止です。先送りの個人版と言ってもいいかもしれません。「いつかやろう」という気持ちに嘘はありません。ただ、その「いつか」がいつまでも先のままなのです。AI活用15タイプでは、この層を組織の中でいちばん大きな勢力として見ています。大きな声で議論しているのは、推進派と懐疑派です。そのあいだ、いちばん人数の多い層は、頷いて、黙って、待っているんですね。
「とりあえず様子を見る」は、長いあいだ正解でした
日本の職場では、「とりあえず様子を見る」という判断が、長いあいだきちんと機能してきました。新しいツールや制度が上から降りてきて、半年後には誰も話題にしなくなります。そういう場面を何度か見てきた人は、最初に飛びついた人がいちばん損をすることがあると、自然に学びます。
しかも多くの職場では、動かないことのコストが目に見えません。使わなかった人を責める仕組みは、たいていありません。逆に、試して失敗した人のほうが目立ちます。そのなかで「様子を見る」を選ぶのは、怠慢というより、職場が長い時間をかけて教えてきたことを正確に学んだ結果ですよね。
待っているあいだ、その人はよく見ています
「なぜAIを使わないのか」と考えるとき、私たちはたいてい強い言葉を用意します。恐れ、抵抗、拒否。でも、実際にこのタイプの人を見ていると、見え方が変わってきます。その待ち方には、本人がうまく説明できないときでも、ちゃんと理屈があるんですね。
ひとつは、流行に流されない慎重さです。みんなが動いているから動く、ということをしません。「話題になっている」は、それ自体では根拠にならないと知っています。
もうひとつは、観察力です。推進派が公開の場で実験しているあいだ、この人はそれをよく見ています。どの同僚が本当に午後の数時間を取り戻し、どの同僚が二週間後にそっと元のやり方へ戻ったのかも見ています。この人はAIの話を無視しているというより、自分がいちばん信用できる情報源から証拠を集めています。その情報源は、製品ページでも発表会でもなく、人です。
そしてもうひとつ、ペースを守る力があります。相当な同調圧力の中でも、自分のタイミングを手放しません。しかも、まだ何色にも染まっていません。中途半端に覚えた癖を捨てる作業が要らないぶん、伸びしろは手つかずで残っています。
それでも、待つことはタダではありません
このタイプの落とし穴は、使わない理由が本人にも言葉になっていないことです。時間がないのか、不安なのか、そもそも必要ないのか。本人の中からは、この三つが同じように見えます。どれも「あとで」の顔をしているのです。そして名前のつかない「あとで」は、静かに「ずっと」へ変わっていきます。機会だけが流れて、気づけば周りが先に行っています。
責める話ではありません。ただ、慎重さそのものより、名前のない慎重さのほうが厄介だと私は思います。本人にも扱えないからです。
押すほど、遠ざかりやすくなります
使っていない人が多いとわかったとき、組織はたいてい圧力をかけます。全社利用の号令、活用率の目標、上司の「もう試した?」。これが、いちばん裏目に出やすいやり方です。そのことを肌で察している同僚も少なくありません。あの人はまだ使っていないけれど、無理に進めても逆効果だろう。そう考えて、慎重に声をかけています。その直感は、たぶん正しいのです。
圧力は、静止に「理由」を与えてしまいます。それまでただ証拠を待っていただけの人が、引き下がれない立場を持ってしまいます。あの感じのいい頷きが、会話を招く合図から、会話を終わらせるための盾に変わります。追い詰めれば、心配していたはずの抵抗を、こちらの手で作り出してしまうことになりませんか。このタイプは、無理な推進に潰れやすいのです。単に、そういう性質だということですね。
隣に誰が座っているかで、変わります
うまくいくやり方は、ほとんど偶然のように見えます。相性で見ると、静かな未使用者の隣に自然に立てるのは伝道師型です。「あなたの業務なら、こう使えますよ」が口ぐせの人ですね。伝道師型が押さずに伴走できているとき、この組み合わせは強く効きます。AI一般の話をいったん置いて、その人の実際の仕事を画面に出し、隣に座って最初の数分だけ一緒にやります。抵抗感を力ずくで潰そうとせず、少しずつほぐしていきます。これが届くのは、この人がいちばん信用できる形の情報だからです。ツールが約束したことより、目の前の人が実際にやっていることのほうを信じています。
もうひとりは習得者型です。専門家として教えにくるかわりに、同じ目線の仲間として隣にいてくれます。相手も最初の一歩を踏み出しているところだと、「自分が遅れて見えるかもしれない」という怖さが消えます。二人で始めると、続けやすさが変わります。5分で終わる最小の用途をひとつ試した時点で、静かな未使用者はもう習得者型に近づいています。転向は要りません。正しい人の隣で、正直な実験をひとつやるだけです。
そう考えると、見るべきものが少し変わります。「AIを使っていない人が何人いるか」を数えるより、その人の隣に伝道師型や習得者型がいるかどうかを見ます。人数の問題に見えていたものが、実は席の並べ方の問題だった、ということはけっこうあります。
もし、これがあなたの話なら
提案は二つだけです。もし本当に「いまの自分の仕事にAIは要らない」と判断しているなら、その理由を言葉にしてみてください。一行で十分です。名前のついた理由は、堂々とした立場になります。名前のない理由は、周りからは逃げているように見えます。それ以上に困るのは、状況が変わったときに、未来のあなたがその判断を見直せなくなることです。
静かな未使用者の多くは、自分に正直になれば、まだ迷っています。だとしたら、5分の実験をひとつだけやってみてください。ごく小さな用事を一回試すだけで足ります。それから、実際に起きたことをもとに、自分の言葉で「使う」か「使わない」かを決めてください。どちらの出口でもかまいません。損になるのは、「そのうち」のまま居続けることだけです。
もし、これが隣の席の人の話なら
「なぜAIを使わないの?」とは聞かないでください。正直な答えは「まだ言葉にできない」であることが多く、そう聞かれた相手は詰問として受け取ります。売り込みも要りません。あなたがそのツールをいいと思っているなら、本物の仕事で使っているところを、ただ見せてください。そしてその人の作業で5分だけ一緒に座りませんかと、一度だけ、軽く申し出てみてください。あとは追いかけず、相手のペースに任せます。
静かな未使用者は、AI活用から取り残された人ではなく、社内でいちばん慎重な観察者です。見て、量って、自分の時間を尊重してくれる証拠を待っています。この話に責めるべき人はいないと私は思います。あなたも、その人も、去年少し急ぎすぎた推進派の同僚も、です。先を走る人がいて、隣を走る人がいて、本物になるまで見ている人がいます。それだけのことです。もしあの会議の頷きがあなたのものだったなら、その裏にあるものに名前をつけるところから始めてみてください。
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