RELACTIS ブログタイプ解説読了 約6分

「静かな未使用者」——AI時代でいちばん誤解されている人

導入会では頷いていたのに、自分の業務ではまだ開いていない。その人は怠けているわけでも、反対しているわけでもありません。そして、たいていの職場がとる対応が、かえって事態をこじらせがちです。

どの職場にも、完璧な頷き方をする人がいます。新しいツールの説明会で、担当者が「ここが自動化できます」と言った瞬間の、あの頷きです。温かくて、感じがよくて、まったく嘘がない。便利そうですね。本当にそう思っています。そして会議が終わり、タブが閉じられ、そのツールは開かれません。その週も、その四半期も。思い当たる顔がありませんか。

あなたの隣の席の人かもしれませんし、あなた自身かもしれません。どちらにしても、職場がその人について語る物語は、だいたい決まっています。やる気がない、変化が苦手、内心ではAI推進に反対している。AI活用15タイプでは、この人を静かな未使用者と呼びます。そして、その物語はほとんど当たっていません。

反対でもなければ、賛成でもありません

まず、よく混同される相手と切り分けておきます。批評家型とは違います。批評家型には立場があります。「AIって、まだ使えないでしょ」とはっきり言い、会議でそれを主張し、しかもその指摘は的を射ていることがあります。静かな未使用者には、主張そのものがありません。新しいツールをどう思うか尋ねれば、心からの同意が返ってきます。いいと思います、便利そうですね。そして、何も動きません。

これは反対ではなく、静止です。先送りの個人版と言ってもいいかもしれません。「いつかやろう」という気持ちに嘘はなく、ただ、その「いつか」がいつまでも未来形のままなのです。そしてここが見落とされがちなのですが、AI活用15タイプは、この層を組織の中でいちばん大きな勢力と位置づけています。議論は推進派と懐疑派のあいだで大きな声で交わされます。そのあいだ、いちばん人数の多い層は、頷いて、黙って、待っているんですね。

「とりあえず様子を見る」は、長いあいだ正解でした

日本の職場では、「とりあえず様子を見る」という判断が、長いあいだきちんと機能してきました。新しいツールや制度が上から降りてきて、半年後には誰も話題にしなくなる。そういう場面を何度か通過した人は、自然にひとつのことを学びます。最初に飛びついた人が、いちばん損をすることがある、と。

しかも多くの職場では、動かないことのコストが目に見えません。使わなかった人が責められる仕組みはたいていなく、逆に、試して失敗した人のほうが目立ちます。この構造の中で「様子を見る」を選ぶのは、怠慢というより、職場が長い時間をかけて教えてきたことを正確に学んだ結果ですよね。

待っているあいだ、その人はよく見ています

「なぜAIを使わないのか」という問いには、たいてい強い言葉が用意されます。恐れ、抵抗、拒否。でも、実際にこのタイプの人を見ていると、見え方が変わってきます。その待ち方には、ちゃんと理屈があるんですね。本人がうまく説明できないときでさえ、です。

ひとつは、流行に流されない慎重さです。みんなが動いているから動く、ということをしません。「話題になっている」は、それ自体では根拠にならないと知っています。

もうひとつは、観察力です。推進派が公開の場で実験しているあいだ、この人はそれをよく見ています。どの同僚が本当に午後の数時間を取り戻したのか、どの同僚が二週間後にそっと元のやり方へ戻ったのか。この人はAIの話を無視しているというより、自分がいちばん信用できる情報源から証拠を集めています。その情報源は、製品ページでも発表会でもありません。人です。

そしてもうひとつ、自分のペースを守る力があります。相当な同調圧力の中で、自分のタイミングを手放しません。しかも、まだ何色にも染まっていない。中途半端に覚えた癖を捨てる作業が要らないぶん、伸びしろは手つかずで残っています。

それでも、待つことはタダではありません

ここは正直に書きます。このタイプの落とし穴は、使わない理由が本人にも言葉になっていないことです。時間がないのか、不安なのか、そもそも必要ないのか。自分の内側から見ると、この三つは同じように感じられます。どれも「あとで」の顔をしているのです。そして名前のつかない「あとで」は、静かに「ずっと」へ変わっていきます。機会だけが流れて、気づけば周りは先に行っています。

責める話ではありません。ただ私は、慎重さそのものより、名前のない慎重さのほうが厄介だと思っています。本人にも扱えないからです。

押すほど、遠ざかりやすくなります

使っていない人が多いとわかったとき、組織がとる標準的な対応は圧力です。全社利用の号令、活用率の目標、上司の「もう試した?」。これが、いちばん逆効果になりやすいやり方です。これを肌で察している同僚も少なくありません。あの人はまだ使っていないけれど、無理に進めても逆効果だろう。そう思って、慎重に声をかけています。その直感は、たぶん正しいのです。

圧力は、静止に「理由」を与えてしまいます。それまでただ証拠を待っていただけの人が、引き下がれない立場を持ってしまう。あの感じのいい頷きが、会話を招く合図から、会話を終わらせるための盾に変わります。追い詰めれば、心配していたはずの抵抗を、こちらの手で作り出してしまうことになりませんか。このタイプは、無理な推進に潰れやすい。単に、そういう性質だということです。

隣に誰が座っているかで、変わります

効くやり方は、ほとんど偶然のように見えます。相性で見ると、静かな未使用者の隣に自然に立てるのは伝道師型です。「あなたの業務なら、こう使えますよ」が口ぐせの人ですね。伝道師型が押さずに伴走できているとき、この組み合わせは強く効きます。AI一般の話をいったん置いて、その人の実際の仕事を画面に出し、隣に座って最初の数分だけ一緒にやる。抵抗感を力ずくで潰そうとせず、少しずつほぐしていきます。これが届くのは、この人にとっていちばん信用できる形の情報だからです。ツールが約束したことより、目の前の人が実際にやっていることのほうを信じているわけです。

もうひとりは習得者型です。専門家として教えにくるかわりに、同じ目線の仲間として隣にいてくれます。相手も最初の一歩を踏み出しているところだと、「自分が遅れて見えるかもしれない」という怖さが消えます。二人で一歩出ると、続けやすさが変わります。5分で終わる最小の用途をひとつ試した静かな未使用者は、その時点でもう習得者型に近づいています。転向は要りません。正しい人の隣で、正直な実験をひとつ。それだけです。

そう考えると、見るべきものが少し変わります。「AIを使っていない人が何人いるか」を数えるより、その人の隣に伝道師型や習得者型がいるかどうか。人数の問題に見えていたものが、実は席の並べ方の問題だった。そういうことは、けっこうあるものです。

もし、これがあなたの話なら

提案は二つだけです。もし本当に「いまの自分の仕事にAIは要らない」と判断しているなら、その理由を言葉にしてみてください。一行で十分です。名前のついた理由は、堂々とした立場になります。名前のない理由は、周りからは逃げているように見えますし、それ以上に、状況が変わったときに、未来のあなたがその判断を見直せなくなります。

静かな未使用者の多くは、正直に点検すればまだ迷っています。だとしたら、5分の実験をひとつだけ。ごく小さな用事を、一回。それから、実際に起きたことをもとに、自分の言葉で「使う」か「使わない」かを決めてください。どちらの出口でもかまいません。損になるのは、「そのうち」のまま居続けることだけです。

もし、これが隣の席の人の話なら

「なぜAIを使わないの?」とは聞かないでください。正直な答えは「まだ言葉にできない」であることが多く、その問いは詰問として受け取られます。売り込みも要りません。あなたがそのツールをいいと思っているなら、あなたが本物の仕事で使っているところを、ただ見せてください。そしてその人の作業で5分だけ一緒に座ることを、一度だけ、軽く申し出てみてください。あとは追いかけず、その人のペースに任せます。

静かな未使用者は、AI活用から取り残された人ではありません。社内でいちばん慎重な観察者です。見て、量って、自分の時間を尊重してくれる証拠を待っています。この話に責めるべき人はいない、と私は思っています。あなたも、その人も、去年少し急ぎすぎた推進派の同僚も。先を走る人がいて、隣を走る人がいて、本物になるまで見ている人がいる。それだけのことです。もしあの会議の頷きがあなたのものだったなら、その裏にあるものに名前をつけるところから始めてみてください。

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